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飲食店閉店の債務整理
債務整理と聞くと倒産をイメージされる方が多いかと
実はこの債務整理という言葉後ろ向きなことばかりではなく、引退による閉店、病気やケガで飲食店を続けられなくなった方や身内の介護が発生しやむなく飲食店から離れなければならない方まで実に多くの方が関わる言葉なのです。
また、経営者ご本人ばかりではなくご家族や社員の方まで準当事者となりうる方も知っておくべき内容です。
今回は前向きとまではいかないものの粛々と債務整理を済ませる為の知識としてお読み頂ければ幸いです。
そもそも債務整理とは
債務整理という言葉はいわば集合名詞のようなものです。つまり特定の状況や状態を指すものではなく、いくつもの取引から成り立っています。
これをつまびらかにするためには、債務つまり第三者にたいし果たさなければならない義務をすべて拾い出し、その義務を履行するもしくは軽減する又は免除してもらう行為を債務整理と表現します。
これに対し、この義務を果たさない状態を債務不履行といい、契約の内容如何では、遅延していることに対し損害金や解除など一層厳しい義務が課されることになります。
飲食店の債務とはなにか
飲食店における債務について箇条書きであげます。
- 借入金(借金)
- リースの返済
- 給料の未払金
- 食材の未払金(買掛金の未払金)
- 酒類の未払金
- ビールサーバー、有線放送、玄関マット、グリスフィルター等の利用料金(リース)
- 公共料金の精算
- 賃貸借契約に関する清算
これらについて一つ一つ確認と清算をすればよいのですが、それぞれの項目について注意が必用な部分がありますのでそれぞれ見て行きたいと思います。
お店の借入金
飲食店の借入先として一番多いのが日本金融公庫ではないかと思います。その他にも保証協会の創業融資を利用する方も多いでしょう。
公的金融機関に限らず借り入れをした際に金消契約つまり金銭消費貸借契約というものを締結するのですが後日返済予定表が送られてきます。この返済予定表を見れば返済すべき残額が分かります。もし無くしてしまった場合は借り入れをした金融機関に問い合わせをすればすぐに教えてくれることでしょう。
開店資金として設備費用や運転資金の名目で借りたお金です。清算ということで一括返済を求められることはありませんが、完済するまで毎月払い続けることになります。
飲食店の什器備品リースの返済
債務整理の中で一番トラブルになるのがこのリースです。金消契約同様返済予定表は変動金利でリースを組んだ際には半年に一度金利の見直しをするタイミングで送られてきます。これらをちゃんと保存していることが重要です。
トラブルの大半がリースを組んだ物品や設備が何なのかわからなくなることで起きます。全額を払ってリースを終了させれば何も問題は起きないのですが、債務整理の際リースの精算をせずに居抜きのままで店舗を第三者に譲渡してしまった時など、後から請求が来てトラブルになることがあるからです。また、リースを組む際1社ではなく複数社と組むような場合がありますので残債がどれぐらい残っているのかを調べる際は、リースを組んでいるものは何なのか全て調べる方が先です。
従業員さんへの給料未払金
働く側からすると未払の給料は労働債権と呼ばれるもので、なによりも先に払われなくてはならないものです。もしこのお金を支払えない事態となっているなら破産を申し立てることで、未払いの給料は財団債権と呼ばれるものになり、直近3ヶ月分の給料は破産財団という公的機関から従業員へ支払われることとなります。いわば奥の手です。
食材の未払金(買掛金の未払金)
毎日か週に2度、3度食材やお酒を届けてくれる食品卸売会社、酒類卸売会社と必ず取引があります。取引を始めた頃は配達の度に請求が来ていたのが、取引の期間が長くなるのに伴い徐々に半月に一度の請求や月々の請求へと伸びて行きます。債務整理をすることが決まった段階でまず連絡をしましょう。買掛金の額が確定します。
飲食店でよくある利用料金
対象となるもの
- ビールサーバー
- 有線放送
- 玄関マット
- グリスフィルター
意外と忘れがちなのが有線放送であったりリースマット、グリスフィルターの未払金です。
これらの請求が毎月ではなく、連絡をすることで交換や引き取りに来る事がほとんどなので、債務整理をしないまま連絡先が分からなくなることもあるようです。その最たるものがビール会社から貸与されているビールサーバーです。特定銘柄のビールを仕入れる見返りに貸出されるビールサーバーは基本お金が発生しないので整理対象から抜け落ちることが多いのです。
ほとんどの場合ビールサーバー本体に連絡先が書かれたステッカーが貼られています。閉店日が決まった段階で一本電話を入れて下さい。
公共料金の精算
飲食店を開店する際手続きをした窓口と同じです。基本電話で閉店日を告げ契約をその日で解約すると伝えるだけです。
その後清算金の書かれた振込用紙が送られてくるのですが、飲食店を送付先にしている場合などは、ご自宅か会社宛に郵送先を変更しておかないと受け取ることが出来ないことがあります。
唯一ガス会社だけはガス漏れが起こらないよう元栓を閉めにきますので立ち合いが必要となります。
飲食店の賃貸借契約に関する清算
ポイントが分かっていないと損をするのがこの賃貸借契約の解約手続きです。管理会社や大家さんに連絡をする前に賃貸借契約書を読み返してください。解約に関する項目があるはずです。そこで重要になってくるのが、解約予告期間と原状回復義務、敷金返還の条項です。
まず、解約予告期間とは解約を申し入れた日からどれだけの期間家賃を払う義務があるのかが書いてあります。次に原状回復工事義務です。民法で借りたものは借りた状態に戻して返すことが定められている関係でこの条項が賃貸借契約書に必ず入っています。最後に敷金の返済に関する条項です。明渡しと債権債務の整理が終了し後返還される敷金の額が確定します。その後いつお金が返ってくるのかが書かれています。速やかにだとか遅滞なくだとか多いのですが、中には6ヶ月後、ひどいものは次のテナントが決まってからと書かれているものまであります。ここは焦って連絡をする前にそれぞれの条項を読み込んで作戦を立ててからでないと損をすることになります。
例えば、契約通り原状回復工事を行い立退き明渡しを終わらせ敷金を1ヶ月後に返してもらうことになったとしましょう。解約予告期間が3ヶ月だと少なくとも解約を告げた日から3ヶ月分の家賃を払わなければなりません。もしその時点で営業を行わないとなれば全くの空家賃です。また10坪程の小さなお店でも原状回復工事を行うとなれば100万円程かかります。この負担だけでも150万円近くかかりますから到底預けている敷金だけで清算はムリです。
これを居抜きで第三者に譲渡するとすれば、契約期間が切り替わりますから解約予告期間は関係なくなりますし原状回復工事費もなくなります。場合によっては売ることが出来るかもしれません。そうなると敷金はまるまる返還されます。債務整理の原資となります。このことを踏まえた上で連絡をとり交渉に臨んで頂きたいと思います。
まとめ:飲食店閉店の債務整理
いかがでしたか? 飲食店閉店の債務整理
この飲食店の債務整理は事情がわからない者にとっては大変ハードルの高い作業です。
だからこそ最初にリストを作り一つ一つ確認する必要があります。
経営者ご本人がこの作業にあたられる場合でも、開店当初の事はあまりよく覚えていないと仰います。だからこそ金消契約書や返済予定表、リース物品リスト、リース返済予定表、卸売会社との契約書、その他の利用契約書、賃貸借契約書、設備機器、厨房機器などの取り扱い説明書に保証書など出来る限り一ヶ所にまとめて保管させることをお薦めします。
もし第三者が関わる場合でもスムーズに債務整理が出来ます。是非今からでも実行してみて下さい。