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飲食店閉店と廃業の実態「うちは大丈夫なのか‥」2017年
帝国データバンクといってピンとくる方は、経営者の方か大手にお勤めの経験のある方ぐらいでしょうか。普段生活している中では滅多にお目にかかることのないこの会社、なにを扱っているのかというと企業の信用調査をしている会社です。初めての取引先として信用できるのか投資先として成長が見込めるのかなど資産内容や経営者の性格までも踏み込んだレポートで有名です。そして調査をして現在公表中の会社数はなんと146万社といいますからその規模がお分かり頂けるかと思います。当然ですが、廃業や倒産と言った企業はそのリストから外れて行く訳ですからその数をカウントすることで飲食店の閉店や廃業の実態が浮かび上がります。今回は、実際に公表されている同社のレポートを参考にしながらその実態に迫ってみたいと思います。
都道府県別閉店、廃業動向
飲食店舗のポータルサイトとして有名な会社が出している閉店、廃業に関するデータでは開店から2年以内に閉店する割合が50%を超えると発表していました。今年春には60%を超えるというデータまで公表しています。
データ分析の詳細がハッキリしないことと、エリアについても業種についても判然としないことに多少の疑問が残ります。そこで帝国データバンクが公表しているデータを引用しながらもう少し広い視野で閉店、廃業の実態を考えて見たいと思います。
経済産業省が発表している飲食店数は、「飲食業、飲食サービス」のうち「飲食店」に該当する民営事業所をカウントしています。
都道府県別ランク
1位 東京都 80,342事業所
2位 大阪府 51,230事業所
3位 愛知県 37,978事業所
4位 神奈川県 33,908事業所
5位 兵庫県 28,392事業所
6位 北海道 28,392事業所
となっています。この飲食店数を頭に入れながら下の表をご覧ください。
この表は飲食店の所在地毎の閉店、廃業件数です。
2012年から東京都が常に1位です。同様に不動の2位は北海道です。飲食店舗数が多い愛知県や神奈川県などは毎年上位にランクインしています。よくこの数字をながめてみると必ずしも店舗数の多い都道府県がその数に比例して閉店、廃業が多いのではないことがうかがえます。事実4位にランクインしている新潟県は経済産業省の飲食店ランキングでは、全国16位、事業所数でいえば10,844しかありません。店舗数で言えば東京の2割にも満たない店舗数でありながら閉店、廃業数は東京の5割近い数字になっています。同様に広島県の店舗数11位、富山県の店舗数39位なども考え合わせると閉店、廃業には別の要素がありそうです。
同じ都道府県別調査で人口1,000人当たりの飲食店数を調べたデータがあります。こちらを合わせて見るとまた違った結果が出てきます。
1位 沖縄県 8.70店
2位 東京都 7.72店
3位 高知県 6.91店
4位 大阪府 6.83店
5位 山梨県 6.51店
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9位 北海道 6.11店
10位 愛知県 6.11店
東京の2位は頷けますが、沖縄県の1位は驚きです。高知県の3位同様に、お酒好きの県民性が表れていますが閉店ランキング上位には出てきません。逆に閉店ランキング上位の神奈川県などは、1,000人当たり4.4店しかなく全国平均5.53店を大きく下回っていることが不思議です。
業態別閉店、廃業動向
下の表をご覧ください。2012年から2016年までに閉店、廃業した飲食店を業態別にカウントした表です。
ここでいう「一般食堂」は大衆食堂を指し、「日本料理店」のなかには、てんぷら、うなぎ、とんかつ、沖縄料理などが含まれます。「中華・東洋料理」は、中華、ラーメン、カレー、焼肉、餃子などが含まれます。また、「西洋料理」には、レストラン、フランス・イタリア料理などが含まれます。
2012年から閉店、廃業のトップは「中華・東洋料理」であることが解ります。業態別構成比でみても最も店舗数が多いようです。実は、この「中華・東洋料理」の閉店、廃業店舗が1位に来る都道府県が北海道と新潟県です。同様に東京都と愛知県で1位となったのは「西洋料理」でした。ここでも共通点よりも県民性が出る結果となっています。
営業年数別閉店、廃業動向
営業年数別に閉店、廃業件数を比べてみたデータが下記にありますが、冒頭に御紹介したポータルサイトの発表と異なり、開店から10年から30年の飲食店の件数、割合がトップです。逆の言い方をすれば、開店から10年未満の割合はあまり高くないことが解ります。このデータの違いはどこから生まれてくるのでしょうか?次のデータを見るとさらに違った印象を受けるはずです。
経営者年齢別閉店、廃業動向
まずは表をご覧ください。
飲食店の閉店、廃業経営者像は、60代をトップに、60代以上の経営者で約6割を占めています。これに対し30歳未満はごく僅かです。構成比率で言っても1%未満です。先程の営業年数と考え併せても、事業に行き詰まるというよりも長年経営をしてこられて引退をされるようなイメージの方がしっくりくる気がします。
冒頭でご紹介した飲食店の閉店、廃業が開業からわずか2年で6割を超えるという数字は、当該ポータルサイトを利用した方々のデータであることが書かれています。つまり、そのサイトに掲載されている飲食店舗物件を実際に借りた方のデータだということですから、利用される顧客層に問題があるのか、掲載されている物件に問題があるのか、その両方なのかよくわかりませんが、少なくとも帝国データバンクのデータや経済産業省のデータを読み解いてゆけば、そんな極端な数字にはならないだろうと分かるはずです。
最近話題のAI=人工知能はいずれ人間の仕事を奪ってゆくとの報道が増えてきました。幸いにも飲食店などはその中に含まれていません。やはり人が作る食事にAIは絶対勝てないはずです。今回のデータを見るまでもなく若い方にはどんどん飲食の世界でチェレンジしてもらいたいと願うばかりです。