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飲食店 閉店する経営者の言訳
先日ある大家さんから相談がありました。入居しているテナントから賃料の値下げをお願いされているのだがどうしたものかという内容です。詳しくお話を伺わせて頂くと多くの情報が解ってきました。まず、そのテナントは飲食店であり入居して半年程しかたっていないこと。値下げのお願いしてきた理由が、コロナによる自粛で必要な資金を家賃を削って工面したいと言う内容だといいます。
さて、折角入居してくれたテナントを応援したい気持ちは十分持っている大家さんですが、突然の話に少々戸惑ってらっしゃいました。意見を求められてお答えしたのは、テナントの前向きな資金需要は大家さんではなく日本政策金融公庫など金融機関の役目ですと。順番からするとそちらを先にあたって下さいとご返事するのではどうでしょうかとお答えしました。
結論についてどうなったかはまだ伺ってないのですが、その後連絡がないと言うことは一旦落ち着いたのかと勝手に理解しています。
これは大家さんの側から見たお話ですが、今回はテナント側の言い分を軸に問題点を探ってみたいと思います。
賃料値下げ交渉
営業不振は家賃が高いせいだとお叱りを受けることがあります。そのロジックはこうです。仕入れや人件費など運転資金の確保は飲食店を営業して行く上で必用不可欠です。お酒や材料がなければお店は開けません。人も同じです。料理を作る人、ホールで注文を伺い客席まで料理を運ぶ人、彼らがいなければ飲食店は開けません。だから売上の中から真っ先に支払われるのです。
これに対し家賃はどうでしょうか。少々支払いが遅れても追い出されるわけではないですし、店を開けなくなると言う訳でもありません。だから支払いが後回しになるのです。同様に価格交渉も然りです。材料費や時給は値切る訳に行きません。値切れば仕入れができなくなります。人も来なくなります。その点賃料は期間を限ってのお願いがしやすいと考える向きがあります。つまり情にすがることが出来ると言う訳です。
営業不振は誰のせい
材料費や人件費は飲食店の生命線と申し上げました。つまり物価が上昇しても購入せざるをえないわけです。経済用語では価格弾力性が小さいと言われるものです。これに対し不動産は値段が上がることで借り手がいなくなる事態が起こりますから価格弾力性が大きいと言えるものです。そのことが誤解を与えます。借りた時点で価格が時間の経過とともに割高になれば賃料の下げ圧力が増します。しかし株式市場がそうであるように買った株が下がったからと言って誰かが補てんしてくれません。しかし不動産は貸主が存在しますから下げる交渉をしたくなるのです。つまり、材料費や人件費は自分の自由にならないが、賃料は交渉できる余地があると思う所以です。もしそれが下がらないと分かると、利益が出ないことや経営が厳しい原因が賃料にあると勘違いすることになるのです。
お客様が来ない理由
前段の話は、売上が上がらない、客数が伸びないだから家賃を下げて欲しいというロジックでした。次に多いのが景気、天候、立地に理由を求めるケースが多く見受けられます。
景 気
漠然とした経済分析です。所得が増えない、税金があがる、生活防衛の為に外食ではなく中食(家に持ち帰って食べる)が重宝されるなど日々流れる情報に理由を求めるものです。ただよく考えれば、すべからく飲食店が売上不振なのではなくちゃんと売上を上げているお店がある訳ですから安易な納得はイソップ童話に出てくるキツネと同じです。つまり努力をせずにあきらめが先に立っている状態です。これを心理学では合理化などと言いますが、飲食店で考えれば、どうしてお客さんが来ないのかシッカリとお客様の要望に向き合っていないと言うことです。
天 候
雨が降るとお客様が来店されない。確かに晴れた日に比べれば数字が物語るでしょう。例年に比べ雨の多い年は夏の暑い時期やハロウィンの頃など収益を直撃した飲食店も少なくなかったと思います。ただ、統計的には1年の三分の一は雨降りです。日本で飲食店を営む以上そのことに目を向けず恨み節を唱えても始まりません。
極端な話、雨が降れば全品無料というサービスを展開すれば雨の日は満員行列になります。そんな無茶な話ではなく、飲食店側のサービスと雨に日に飲食店を訪れたくなる客様へのインセンティブがどこで交差するのか考えることで解決できるのです。それが、割引なのか格安の食べ放題なのか業態と客層で大きく異なりますが発想は同じです。
立 地
この場所を借りて失敗したと嘆く経営者の方に多く出あいました。お話を聞く限りではその通りだといつも思います。しかし住宅地の真ん中にあるラーメン店の繁盛や駅から20分以上離れた場所にある喫茶店に開店前から行列が出来るのはどのように説明すればよいのでしょうか。天候に打ち勝つサービスがあるのと同じで、立地を凌駕する味やサービスは存在します。以前流行語にもなったインスタ映えなど、簡単に手に入らないことが一つのポイントになっています。だからそこにたどり着いた写真がイイネを集められるのです。
ある登山家が言いました。登れない山など存在しないと。十分なトレーニングと装備、頂上へのルートの選択は言うに及ばず、刻々と変化する天候や環境に対する判断が登頂の成功を左右するばかりか一歩間違えれば死に至ります。これを飲食店経営に置き換えてみるとどうでしょうか。料理の技術、メニュー開発など入念に検討します。厨房設備や調理器具など万全に揃います。最初にたてた事業計画を基に営業を開始するのですが、景気、天候、立地への不満、賃料への不満など変化する環境やお客様の嗜好の変化にちゃんと向き合い判断をしているとなります。
登山と違い一歩間違えても幸い死には至りませんが、結果閉店の憂き目を見ることになるかもしれません。進も退くも自己判断の登山同様刻々と変化する環境と向き合い乗り越える強さが飲食店の経営には求められるのです。