先日知人から飲食店の閉店について相談を受けました。どうやら大家さんから原状回復工事をするように言われていて困っているというような内容でした。これだけ聞けば普通のことなのですが、本当の問題は原状回復に関する仕様が契約書に入っていない為どこまでの工事をすればいいのか解らないというところです。
今回は、飲食店を解約する際にテナント、大家さんの間で頻繁に争点となるポイントを見ながらどこに注意をすればよいのか双方の立場から考えて見たいと思います。
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飲食店テナントは最初に契約書をよく読むこと
飲食店の物件探しは、実際に物件を見始めてから概ね3ヶ月程かかると言われています。これぐらいの時間をかけなさいということではなくて、自分のイメージや予算にあう物件が出てくるまでの時間であったり、理想と現実のギャップを埋める時間でもあります。その後ようやく借りられる物件にたどり着くまでの時間です。苦労をしてやっと出会えた物件だけに早くオープンしたいと気持ちがはやるものです。
物件を借りる際は、賃貸借契約に関わる条件のなかでも敷金や月々の賃料ばかりに目がゆき解約についての条項にはほとんどといっていいほど目がいかないようです。ある方に同様のアドバスを申し上げた時にこういわれたことがあります。「店を始める前から辞める時の事なんか縁起でもない」と。
お気持ちはよくわかります。しかし開店から2年で50%を超える飲食店が閉店していることも事実であります。自分だけは違うのだと思う気持ちはよくわかりますが、いざその時が来て、あの時ちゃんと契約書を見ていればこの物件を借りなかったのにと思っても後の祭りです。
賃貸不動産は、立地や家賃で選ばれがちです。マンションやアパートなどの「居住用物件」であれば住む人が困るような取引が法律で規制されていますのでその判断基準で良いのですが、飲食店用の物件は事業用に区別されており消費者保護の範疇には含まれません。ですからクーリングオフもききませんしおとり広告のようなものであってもご自身が事業者(個人であっても)として借りる場合は保護の対象から外れてしまいます。ですから自分がある程度知識を持って対応しなければなりません。ここをおろそかにすると後で痛い目にあいます。
大家さんも飲食店を入居させるなら法律を知るべき
投資をなさる大家さんと古くから不動産を持っていらっしゃる大家さんでは法律や税務に関する向き合い方が随分違うように思います。ちょっとした法改正にも敏感な大家さんは投資家タイプの方で、いろいろと勉強をなさっています。これに対して古くから不動産を持っている大家さんはどちらかと言えば相続を気にされる方が多くそれ以外は管理会社にすべてを任せる丸投げタイプが多いように思います。
最近もあった話ですが、1階を飲食店で貸し出している大家さんから、「空室になりそうだが、お宅で借りないか」との相談が入ってきました。早速調査に行ってみるとなんか変です。建物の裏側にまわってみると、1階の壁だけがブロック積みになっていました。そこで大家さんに伺ってみました。「大家さん。ここはもともと駐車場ではなかったのですか?」
大家さんはよくわかったなと感心していましたがそういう問題ではありません。
建物の登記簿謄本を確認すると用途は駐車場のままとなっています。場所柄駐車場で貸すよりも店舗で貸した方が4倍もの家賃が入るので後から変えたと仰ってました。この場合建物の延べ床面積が100㎡を越えていると用途変更の手続きが必要となります。さらに問題があって2階以上にある火災報知器が1階にはついていません。この状態で飲食店がよく入っていられたとこちらが逆に感心した次第です。
そもそもその建物を管理している不動産会社の薦めで改造に踏み切ったようですが、どうやら管理会社の入れ知恵で消防検査を受けないで今まで来たようです。もし火災が起きて誰かがケガを負ったり不幸にも亡くなられることがあったとすれば、知らなかったは通用せず大家さんの実刑は免れません。
飲食店など閉店時はこういった問題点をリセットするいい機会です。仮に、居抜きで次も飲食店で貸しつづけるなら次に入るテナントさんには必ず消防検査を受けるように条件を付けるのが最善策だと思います。
飲食店の閉店で必ず紛争になるポイント
原状回復工事
冒頭でもお話ししましたが、原状回復義務とは貸した時の状態にして返すということを意味しています。もし、スケルトンの状態から借りたとすれば、なにもない状態が原状です。床、壁、天井にトイレまで仕上げてあるような物件もありますが、入居前に写真を何枚も撮っておき原状の造作が大家さんの資産なのか残置されたものなのかをハッキリさせる必要があります。大家さんの資産は壊さず残し、テナントが設えた造作はすべて壊すのが正解です。
紛争ポイント:入居する際は居抜きといった場合、すべての造作や設備が付随しています。これを解約をして出て行くときはスケルトン(すべて撤去した状態)にして出て行ってと言われるケースです。
どこまで壊すのか分からないばかりか、ガス管や水道管の処理をどこまでやるかによって原状回復工事のコストが全く変わってくるからです。例えば、床のコンクリートの中を通っているガス管、水道管も含めて撤去となると手間や廃棄に相当お金がかかります。
契約書に原状に関する記述がなくても簡単なメモでもいいので大家さんか管理会社から仕様を書いた書類を頂いておきましょう。
ここで注意点をひとつ。そのようなことを求めるテナントを面倒なテナントと決めつける大家さん、管理会社がいらっしゃるのでしつこく言うと物件を貸してもらえなくなる恐れがあります。そのような場合は、聞き取りをしてテナント自身で書類を作成し大家さん、管理会社に渡しておくのもいいでしょう。
解約予告期間
住宅、事務所、飲食店すべての賃貸借において賃貸借契約を締結したのちテナントから解約を申し出る際は「書面による解約届」というものを出すように書いてあります。これを出せばいつでも解約できるというものではなく、書類提出後契約で定められた期間は使っても使わなくても家賃を払い続けなければならない期間が存在します。この期間を解約予告期間というのですが、これもいざその時になって聞いてなかったとなることが多くあります。
契約書には1ヶ月から長いもので8ヶ月となっているものがあります。皮肉な話ですが大手の不動産会社ほど厳密に求めてきます。
通常は契約書に書かれていないのですが、解約予告期間中に次のテナントが入居する際は家賃を止めてもらえるよう一筆書いてもらいましょう。
この解約予告のケースで言えば、居抜きでお店を引き継ぐのが一番お店を閉める方にとって都合のよい辞め方かもしれません。次にお店を引き継ぐ方が、来月からやりたいと言えば今月で辞めればいいし、次の方が3ヶ月後と言えばそこまで頑張ればいいということだからです。
~まとめ~飲食店の閉店で必ず紛争になるポイント
これまで扱ってきた飲食店舗物件でトラブルはいろんなケースがありましたが共通していることが一つあります。解約時に想定出来たであろう問題をあいまいにして文章化しないで放置した結果トラブルになったというものです。
文章にして残すという作業は、本来不動産を仲介する不動産会社がやるべき仕事なのですが(そのために仲介手数料を取っている)宅地建物取引業法で決められた最低限の説明しかしない為に問題が多発しています。あまり飲食店物件を扱ったことがない不動産会社と組むこととなったら彼らをあてにせず自分自身で確認をするようにしてください。そうでもしないと嫌な思いだけにとどまらず相当な出費となります。